H26.6.11 厚生労働委員会
―ストレスチェックは産業医に任せてはいけないの?―
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○重徳委員 日本維新の会の重徳和彦です。
労働安全衛生法の改正案の審議に入ります前に、今月初めに愛知県常滑市民病院で起きました、造影剤投与によります小学校一年生、六歳の女の子の死亡について指摘をさせていただきます。
地元紙によりますと、高熱が続いて市民病院に入院していた女児が、六月三日、体内の状況をエックス線で検査するため、腕から造影剤を投与したところ、数分後に気分の悪さを訴え、しばらくして呼吸困難に陥った、医師らが救命措置をしたが、容体は回復せず、間もなく死亡したということが起こりました。
現在、死因を調査中ですし、詳細については、これはいろいろなことがあるかもしれませんので、断定的なことは申し上げることはできませんが、この造影剤投与ということにつきまして、先般の地域医療介護総合確保法案の中で、こうした造影剤投与というのは、急性アレルギー反応のアナフィラキシーショックというものがあるんだということを御指摘申し上げました。
これは、いわゆる診療放射線技師が実施する検査に伴い必要となる造影剤の血管内投与、これが、今までは医師しかできなかったことに対しまして、これからは診療放射線技師が医師の指示のもと行うことができるようになる、業務範囲が追加されるという法改正に伴っての話なんですけれども、この点につきまして、原医政局長は、診療放射線技師には非常に限定的な、造影剤の自動注入器と点滴の回路をつなぐことだけをやってもらうんだとか、そのスイッチを押すというところだけやってもらうんだということで、万一のことが起こったら医師をまず直ちに駆けつけさせるという体制をとること、その間は造影剤をとめるんだとか、あるいは、点滴まで抜いてしまうとその後の処置も大変になるので、そこの部分はつないだままにするんだとか、そういった対応について研修の中でしっかりとやっていくというお話がございました。内容についても専門家と相談をしていくという御答弁も、その法案審議のときにありました。
ここで、私は、こういったアナフィラキシーショックによります、造影剤投与によります死亡というのが、実際、これは記事によりますとですけれども、厚労省によると、二〇〇八年から一二年の五年間で副作用が疑われる死者は八種類の造影剤で計五十五人、死因の大半はアナフィラキシーショックであるという記事の報道内容もあるものですから、この辺の、こういった統計上の事実というものがもし今確認できるのであれば、その点を確認してみたいということと、何よりも、これから放射線技師の方が的確にこういった対応ができるような体制、これに万全を期していただきたいということを申し上げたいと思います。
一言、コメントがあればお願いします。
○原政府参考人 お答えいたします。
常滑の市立病院で起こった事件につきましては、今現在、警察も捜査を開始しているということで、愛知県を通して事実確認を行っているところでございます。必要な対応については、事実関係が判明次第、とっていきたい。
お尋ねの診療放射線技師の今回の業務範囲の拡大につきましては、先般もお答えいたしましたように、万全の体制をとるということが必要である。
従来でいきますと、最終的にそのボタンを押すところだけ医者が呼ばれて、押してください、こういうような形になるわけですが、そこはお願いできないだろうか。ただし、その場合でも、アナフィラキシーショックというのは必ず起こり得る事故でございますので、ですから、それに対する万全の体制をどうとっていくか、そのあたりについては、今現在、専門家を含めて検討を進めているところでございます。
○重徳委員 この法案自体、慎重審議を再三求めてきたものに対しまして、最後はもう強行的な採決が行われたということで、それを行ったのは政府・与党でありますので、その辺を含めて、きちんと責任を持って対応いただきたいということを要望申し上げます。
さて、それでは、労働安全衛生法の改正案に入りますけれども、まず、この法案ですが、今回提出された法案の三年前に、平成二十三年、同じような内容の法案が、当時、民主党政権のもとで提出がされたという経緯がございます。ただ、そのときの法案がそのままの形で今回出されているんじゃなくて、メンタルヘルスの対策、それから受動喫煙防止対策、ここに一部修正を加えた上で今回法案が提出されているということですので、このあたり、確認をしながら質疑をしていきたいと思います。
まず、法案の六十六条で、事業者は、労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならないという定義があるんですけれども、ここの「健康診断」のところに括弧書きで、二十三年の法案には「精神的健康の状況に係るものを除く。」という規定がありました。今回は「第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。」六十六条の十というのは何かというと、心理的な負担の程度を把握するための検査を除くということで、健康診断から除かれるものが違うんですね。前回は精神的健康の状況に係るもの、今回は心理的な負担の程度を把握するための検査を除く。
このあたり、この定義につきまして、この違いは何かということ、特に健康診断というものには、一般的に体の面だけではなくて心の面も総合的に健康診断の中に含まれるのが通常ではないかと思うんですが、その点を含めて、御答弁をお願いします。
○中野政府参考人 前回提出した法案におきましては、御指摘のとおり、健康診断から「精神的健康の状況に係るものを除く。」という条文の規定としておりましたが、これにつきましては、心身の健康を分離しているものとの誤解を生じる表現であったため、今回の法案では、より趣旨を明確にするために、「第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。」という規定に変更したものでございます。
○重徳委員 心身分離という誤解が生じかねないということでありますので、ここは明確化されたとは思います。
それから、実際に、除くとされたいわゆるストレスチェックということなんですけれども、今回、六十六条の十で検査の定義もまた変わっているんですね。横文字で言うといずれもストレスチェックという言い方だと思いますね。二十三年の法案でもストレスチェック、今回もストレスチェックということなんですけれども、前回の二十三年法案では、法律上は、「精神的健康の状況を把握するための検査」というふうに書いてあった。今回の法案は、「心理的な負担の程度を把握するための検査」というふうに書いてあるんですね。
ストレスチェックに対する不安というか懸念のような声は、各厚生労働委員の皆さんのところに非常にいろいろな声が届いていると思いますけれども、特に、前回、精神的健康の状況の把握のための検査という定義、文言自体も随分批判されたと思います。今回は、文言が変わったというのは見ればわかるんですけれども、これは同じ目的、あるいは同じ内容の検査を想定しているんでしょうか。前回の法案とどう違うんでしょうか。
○中野政府参考人 この検査自体につきましては、前回も今回も、いわゆるストレスの程度を把握するための検査ということで、基本的に狙いとしているものについては変更はないわけでございますが、前回の法案における「精神的健康の状況を把握するための検査」という表現につきましては、先ほども申し上げましたように、心身を分離して健康診断を行うのではないかというような懸念、それからまた、精神疾患のスクリーニングを行うのではないかというような懸念なり誤解を生じかねないということで、それを避けるために、今回は、より趣旨を明確にするために、「心理的な負担の程度を把握するための検査」、このように変更したものでございます。
○重徳委員 ちょっと大臣に確認をしたいんです。
今、ストレスチェックということについて、いろいろな懸念の声もあります。科学的な根拠がなお不十分ではないかという指摘もあります。
今回、この法案においてストレスチェックをどう位置づけるかというのは、本当に核心部分だと思うんですね。であるがゆえに、今局長から御答弁がありましたように、誤解を招かないようにということも一つあるとは思うんですが、スクリーニングというのは、ストレスチェックによるスクリーニングをするのではないかという、これも誤解というふうに今御答弁になりましたが、もう少し踏み込んで考えると、メンタルヘルスの体系というのは、一次予防、二次予防、三次予防と分かれているんです。
スクリーニングというのは、メンタルヘルスの不調を訴えているというかメンタルに支障を来してしまった方が、メンタルヘルスという状況にあるのかどうかということのスクリーニングということだと思うんですけれども、これは二次予防の世界だと思うんですよ。メンタルヘルス不調の未然防止というのが、一次予防である。一次と二次というのは、ちょっと段階が違うと思うんですね。
前回の二十三年の法案においては、二次予防を目的とするものではないかという懸念があったという理解があると思うんですけれども、これを今回は、いや、そうじゃないよ、一次予防を目的とするものなんだよというふうに変えたんでしょうか。それとも、前回もあくまで一次予防だったということなんでしょうか。ちょっと誤解という言葉が曖昧なものですから、確認したいと思います。
○田村国務大臣 先ほど委員が言われた二十三年度提出法案、「精神的健康の状況を把握するための検査」、これから、「心理的な負担の程度を把握するための検査」に変わったわけですよね。
多分これは、精神的な健康の状況を把握するとなると、精神疾患も含めたそういうようなものをチェックするためのストレスチェックであるのではないかというふうに誤解を受けるおそれがある。前回も実は、ストレスチェックですから、ストレスがどれぐらいありますかねということをはかるためのチェックであって、それがイコール精神疾患ではないわけであります。でありますから、前から同じ考え方なんですが、ちょっと書きっぷりが誤解を招くようなところがあったので、そこを明確にさせていただきました。
結果的に、ストレスのたまり度合いというものをある程度把握しながら、御本人がみずから申し出あられる場合は面接指導を行って、その結果を含めて、これはどう対応していくかということで、場合によっては、本当に精神疾患のおそれがある方がその中にはおられるかもわかりません。そういう場合には、もちろん受診をしていただく、勧奨ということはあります。
ただ、あくまでもこれは、それをあぶり出すものではなくて、もしストレスがたまっているのならば、それを、どういう理由なのかということも面接指導等々で確かめながら、場合によっては、それを事業環境といいますか労働環境の改善につなげていくというような形で未然に防ぐ。もちろん、二次予防という意味では、結果、早期発見があれば、それに対して早期対応して、二次予防もやっていく。
だから、二次予防、一次予防、これは両方とも重要でございますので、全く我々としては、二次予防自体を今回のことと切り離すという意味ではありません。ただ、あくまでもこれは一次予防という意味で、まずはストレスのチェックをさせていただいて、悪くならない、病になる前と言っていいのか、ちょっと言い方が難しいんですが、その前に未然に防いでいくというようなことを主目的にさせていただいております。
いずれにいたしましても、心の健康指針では、一次予防、二次予防、両方とも重要でございますので、それが相まって、職場環境改善も含めて、労働者の心の健康というものをしっかりと守っていくという部分が重要であろうというふうに考えております。
○重徳委員 大臣は非常に御答弁が上手なものですから、何となく、なるほどなというふうになってしまいがちなんですけれども、やはり言葉一つという感じがするんですね。
つまり、スクリーニングだとか精神疾患を抱えている人をあぶり出す、今大臣の御答弁、あぶり出すというのが言葉自体非常に悪い言葉でありますので、そういうことではないという言い方はわかるんですが、だけれども、結局、一次予防も二次予防も決して分け隔てなくというか、中には精神疾患の方もいらっしゃるかもしれないということは大臣おっしゃるわけです。
ですから、批判されやすい言葉は避けるという意味では、スクリーニングとかあぶり出しということではないと言った方がいいとは思うんですが、だけれども、私はやはり、これは大臣と共通認識だと思いますが、一次予防だけじゃなくて二次予防も当然大事ですから、今回のストレスチェックというのは一次予防のためのものだけではないんだよと言わないと、逆におかしいんじゃないかという考え方もあると思うんですよ。つまり、何か曖昧なんですよね。
前回は、あぶり出しとか精神疾患のスクリーニングじゃないかという批判があった、そこで、明確化するために言い方を変えたというふうにしか捉えられないですけれども、言い方を変えただけで、実際には、だから、二次予防も含まれるわけですよね。非常に言葉を使い分けているように感じるわけなんですよ。
役所の方からいただいている資料なんかを見ますと、いや、今回は、二次予防じゃなくて一次予防だよというふうに見えるんですよ。前回の二十三年法案というのは二次予防だというふうに受けとめられた、これは誤解だ、前回も、二次予防じゃなくて一次予防だったんだよと。だけれども、言葉が二次予防に聞こえちゃうので、一次予防であるということを明確化するために今回の言葉にしたということなのであれば、大臣がおっしゃったように、いや、でも、二次予防も関係ありますからという言い方はおかしなことになりますし、やりとりしているうちに、何かわからなくなっちゃうんですよ。
結局、今回は二次予防なんですか、一次予防なんですか。あぶり出しとかいうネガティブワードを使うといかにも悪いことということになるので、そうじゃなくて、正しく把握するというのがいずれにしても必要なことではあると思うんですよ。だから、ストレスチェックというのは、本当に一次予防のためだけにしか使えないという方が世の中的には変な感じがするんですね。だって、重度な方をストレスチェックで判定できないなんてことはないでしょうし。
だから、余り一次予防だ一次予防だと言っていると、何か逆の誤解が生まれるんじゃないかと思うんですけれども、何かもうちょっとすっきりした御答弁をいただきたいと思います。
○田村国務大臣 一次予防だけでは当然ないわけで、一次予防から二次予防の方には当然つながっていくわけであります。ただ、二次予防を主の目的にはしておりません。二次予防を主の目的ということにすれば、要するに精神疾患のおそれのある方々だけの対応であります。
そうじゃなくて、そういうような状況をつくらないために、まず一次予防で、ストレスがどれだけたまっているか、その原因は何であるか、その内容によってはそのストレスを取り除く、そういうことを事業主にもお願いしていくわけであります。助言をしていっていただくわけであります。
だから、主な目的は一次予防です。しかし、当然ですが、その結果、悪いということがわかられた方に関して、おそれのある方に関しては、ほっておくわけにはいかないわけでありまして、その方に対してはちゃんと受診勧奨等々もしていくということでございまして、早期発見のもとに早期対応をしていくということでありますから、私が言っているのは、決して二次予防は関係ないということを言っているわけではありません。
そういう流れの中で、ただし、まずは、二次予防が主たる目的じゃなくて、主たる目的は一次予防、その結果、二次予防につながっていけば、それは、働く方々にとっても、健康を守るためには有用なことであろうというふうに考えておるわけであります。
○重徳委員 今の御答弁の方が常識的な感じがします。一方で、やはり一次予防が主目的である、だけれども二次予防もあるよ、つまり、言葉を悪くすれば、スクリーニングというか、そのスクリーニングという言葉もちょっと変な言葉だなとは私も思っていますけれども、だけれども、そういう疾患があるということがストレスチェックによって判明することは当然あり得るわけですよね。その場合には、ぜひ精神科を受診しなさいというような勧奨というんですか、そういうこともあり得るということですから、そこは、何か誤解があったとかなんとかということじゃなくて、やはり今の御答弁の方がすっきりとはすると思います。
その上で、ストレスチェックの具体的な内容とか方法というのが余り示されていないものですから、ここへの懸念もいろいろあるんですよね。ストレスチェックの項目、実際、チェックシートなんというのが出てくると思うんですけれども、これがどういうものになるのかは余りよくわかりません。
ストレスというのも、いいストレスももちろんあると思うんですね。やはり責任ある仕事を与えられれば、やりがいを持ってやる人だっているし、そういうストレスというか困難を乗り越えてやり遂げるからこそ達成感があるんだし、その結果、給料が上がったり昇進したりしたらなおさらやりがいが出てくるということで、これをストレスと言うと言葉が悪いのかもしれませんが、仕事というのはそういうものだという面もあると思います。
ただ、一方で、今回問題になっているのはそういうことじゃないと思います。悪いストレスというのは、パワハラを受けていたり、セクハラを受けていたり、職場内のいじめがあったりとか、あるいは、必要以上に上司からいろいろなことを言われるとか、必要以上のプレッシャーを与えられるとか、その結果、長時間残業に至るとか、いろいろなストレスがあると思うんです。
これは、健全に運用されればもちろん、法の趣旨に沿ったことで、いいと思うんですけれども、あくまで心配しなければならないのは、これが悪用というか、事業者側の余りよからぬことにこのストレスチェック制度が使われてしまうといけない。
少し具体的に言うと、例えば、ストレスに強い人なのか弱い人なのかはわかりますね。どんな指示をしても、すぐばっと気合いを入れて翌朝までには仕事、成果を持ってくるとか、そういう社員さんもいるかもしれませんし、ちょっときついことを言われるとすぐ参ってしまう、そういうこともストレスチェックでわかるかもしれない。同じような負荷を与えているけれどもストレスと感じるかどうかという程度が違うとか、あるいは、普通に上司が指示を出しているつもりでも、それがパワハラだとか、あるいは、場合によってはセクハラだとかいうふうに受けとめられているかどうかだってわかる。
そういうことを上司なり経営者が把握することによって、これはやはり悪い意味での人事に影響するとか、そういう社員の扱いに影響するとか、そういうこともあり得ると思うんですが、その点どのようにお考えでしょうか。
○半田政府参考人 先ほど来御説明申し上げておりますように、ストレスチェック制度は気づきを促すということが基本でございまして、ストレスの原因となる職場環境の改善につなげるということを目的としております。ですから、正当な理由なく、個人の健康情報が利用されたり、労働者が不利益な取り扱いをされるというようなことはならないと考えてございます。
このため、一つには、情報の保全というような観点からは、労働者にストレスチェックの受診義務は課してございません。それから、受けた場合でありましても、労働者に直接通知されまして、労働者の同意なく事業者に通知されることはないというふうになってございます。それから二つ目に、面接指導の実施は、労働者の申し出を受けて行うということになってございます。三番目に、ストレスチェックや面接指導の実施者、これには守秘義務を課してございます。
こういったことによりまして、労働者の意向に反してメンタルヘルスに関する情報が取り扱われることがないような仕組みとしているところでございます。
それから、その後の不利益な取り扱いの防止ということでございますけれども、例えば、労働者からの申し出に応じた面接指導につきましては、その申し出を理由とした不利益な取り扱いは法律上禁止したいと考えております。それから、面接指導の結果を踏まえた事後措置の適切な方法、あるいは不利益取り扱いと見られる事業者の行為、こういったことに関しましては指針などでお示ししまして、こういった不利益取り扱いがなされないような仕組みとしていきたい。
こういったことに沿って、適切な運用がなされるような周知、啓発、施行後の必要な指導などを行っていくということで考えております。御理解いただきます。
○重徳委員 何か聞いたこと以上に答えていただいたような感じがしますけれども、事前に通告もしておりますので、若干その辺も触れていただいたのかもしれませんが。
まさに今、受診義務を労働者には課していないんだ、あるいは、ストレスチェックを受ける、検査を受けたその内容を同意なく事業者に伝えることがない、こういうことではあるんですが、指針を示すというふうに今部長言われましたけれども、それに沿って正しく運用されれば、それはそれでいいんですけれども、やはり、この条文を見ても、労働者が申し出たときは、事業者は医師による面接指導を行わせなければならないということですね。申し出をしたことを理由として、当該労働者に対し不利益な取り扱いをしてはならないということなんですが、人事なんというのはいかようにもやりようがあると思うんですね。
まして、法文上も、事業者は、医師の意見を聞いた上で、それを勘案して、必要と認めるときは、就業場所の変更、作業の転換などの措置を講ずるというふうにあるわけで、これは本人のためだと言って人事異動をすれば何でもよかれと、決して不利益になることではないんだというふうに説明できてしまうと思いますし、社内の非常に内部的なことまで政府が定める指針をもってきちんとコントロールできるとは何か考えにくいんですね。
それから、ストレスチェックを受けた労働者の同意を得ないで検査結果を事業者に提供しないということなんですが、もともと、ストレスチェック、これは医師、保健師が行うとは書いてありますが、恐らく、全ての事業者が義務づけられるわけですから、それなりの会社が、ストレスチェックシートを提供する会社が出てきて、これからどんどんとやっていただくようなことになると思うんです。ぜひ我が社のチェックシートを使ってくださいと言って事業者に営業して回ることも想定され、そして、その結果、採用されたチェックシート提供事業者が、その会社の経営者にその結果を伝えることなく、いや、これは本人の同意がありませんので、結果は伝えられませんなんということがあるのかなと。まして、同意をしない労働者の検査結果こそ事業者側は知りたいのではないか、まあ、これはちょっと邪推も入りますけれども、そういうような状況じゃないかと思うんですね。
だから、法律では、不利益取り扱いをしてはならないだとか、同意を得ないで検査結果を提供しちゃいけないとかいろいろ書いてありますけれども、そんなことできるんだろうか。罰則もないですよね。この辺、どのようにお考えでしょうか。
○半田政府参考人 同意なく情報が提供されないということは、先ほど申し上げましたとおり、六十六条の十のところで書いておるわけでございますが、もう一つ、メンタルヘルスチェックを行った当事者、関連した者たちに対しましては、その情報を外に出してはいけないという義務が課されてございます。百四条のところで課されてございまして、これには明確な罰則も科してございます。
そのほかの部分に関しまして、法律に書いてあっても守られるかというところになると、なかなか、ちょっと何とお答えしてよいかわかりませんが、やはり法律で義務となった以上は、私どもは、その義務を適正に執行していただくように執行機関として取り組んでいくということになる、そういう覚悟でおります。
○重徳委員 法律で義務と書かれているから守られるというのは、為政者側の期待の域を出ないような感もあります。もちろん、法律を遵守する義務というのは一般的に国民側にもありますので、それは守らなきゃいけないことではあるんですが。
ちょっと関係ない話ですけれども、国民年金だって義務なんですよね。保険料を払うのは義務なんだけれども、六割しか納めていないわけですし、そういう意味では、法律上の義務が守られないということは幾らでもあるわけで、そこに事業者の意思、意図がかかわれば、やはりそれはなかなか守られることではないのではないか、こういう感じもいたします。
これは、実際やってみなきゃわからないということもありますけれども、いろいろな懸念があるということはぜひ理解いただきながら運用していただかなきゃならないと思っております。
次に、そのストレスチェックの内容とか方法、これも法律上は明らかではありません。職場のメンタルヘルス対策というのは本当に職場によって千差万別で、これをきちんとうまくやっているところなんかは、やはり熱意のある産業医さんがいたり、保健師さんがいたりするわけなんですけれども、今回、産業医の位置づけというのは非常に不十分じゃないかなと思うんですね。
労働安全衛生法十三条、それから、それに基づく施行規則には、産業医のやらなきゃいけないこと、職務というのがきちんと明記されているわけで、その中に、健康診断、面接指導等の実施、労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理などなど、書かれているわけです。
必要があると認めるときは、産業医は、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができるとか、少なくとも毎月一回作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならないとか、産業医さんにはいろいろな役割がこれまでも位置づけられているにもかかわらず、しかも、これは五十人以上の事業所であれば産業医を設けなければならないわけですから、今回のストレスチェックと同じ定義ですよね。
そういう意味では、産業医さんというのがいるにもかかわらず、ストレスチェックというものは外部の医師、保健師等に委ねる。それから、面接の申し出をするかどうかは、まずは労働者本人の判断に委ねられていて、その申し出があって面接の実施依頼を事業者が、つまり経営者側がするにしても、その依頼先というのは必ずしも産業医じゃなくてもいいというか、ちゃんと決められていないということでありまして、これは、産業医の本来あるべき姿と何かちょっと全然別個になっちゃっているように見えるんですが、このあたり、何で産業医がこんなに外されちゃっているんでしょうか。
○田村国務大臣 これは、ストレスチェック自体は、おっしゃられるとおり、産業医でなくてもやれるわけでありますし、部外の保健師等でもやれるわけであります。あわせて、面接指導に関しましても、産業医にかかわらず、部外の医師もやれるわけであります。
ただ、委員がおっしゃられますとおり、これは、やはり労働者の健康を継続的にしっかりとチェックしていくという意味も含めて、また、労働者が行っている業務でありますとか、実際、今の健康状況でありますとか、こういうことも含めて把握をされているのは、産業医の方がそれは把握をされているわけでございます。
でありますから、法施行をされれば、我々も指針の中で、できますけれども、産業医という方がふさわしいというような形でこれは示してまいりたい、このように考えております。
○重徳委員 大臣から、産業医がふさわしい、望ましいということを示されるということですので、それはそれでいいんですけれども、それだったら、何で法律上はこんな位置づけになったのか、ちょっとよくわからないんですけれども。
さっきから私も当てずっぽうで言っている部分もありますので、ストレスチェックシートを会社が一生懸命売り込むんじゃないかとか、私も推測で言っている部分もありますけれども、やはり、やってみなきゃわかりませんとか、あるいは、法律が成立してから考えますみたいな、そういう答弁というのはいかがなものかと私は思います。何のために国会で議論しているのかもよくわかりません。
そういう意味で、今聞いてよかったと思いますけれども、何か聞かなきゃわからないという、そういう感じで非常に不親切な感を受けます。(田村国務大臣「理由を言います」と呼ぶ)何か補足、追加で、大臣、お願いします。
○田村国務大臣 先ほど言いましたように、望ましいわけであります。
ただ、これは、どういう実施体制で行うかということもございますし、なかなか産業医の方々も数が限られているわけでありまして、これは五十人を超えた全事業所がやるということになった場合に、産業医がどれだけ確保できるかということも含めて、やはりいろいろとそういう点も不安もありますので、限らないというふうになっておるわけでありますが、しっかり手当てしていただける限りは産業医が望ましいということで、我々の指針でお示しをさせていただきたいというふうに思っております。
○重徳委員 ストレスチェックの内容、方法に少し移りたいと思うんですが、さっきから申し上げているような産業医とか保健師などのいろいろな取り組みによりまして、これまでも職場のメンタルヘルス対策というのが行われてきたと思うんですが、そういう意味で千差万別の取り組みがある中で、これからストレスチェックの内容とか方法については、全国一律とか、全事業所一律とか、そういう標準モデルを出してやっていくということになるのでしょうか。
平成二十三年の法案の段階では、ストレスチェックは九項目の問診票で行われるというような議論があったようなんですが、それも、エビデンス、妥当性や有効性というのは未確認のままじゃないかという指摘も出ています。
ストレスチェックの内容、方法について、具体的にどのようにお考えなんでしょうか。
○半田政府参考人 ただいま委員の御指摘のございました九項目、実は、そのもとになりますのが、平成九年からだったか、ちょっと正確に覚えてございませんが、十一年ぐらいまでにかけまして、私ども、研究を行ってございます。その結果を踏まえまして、十二年度に五十七項目のチェックリストというのを出してございます。実は、このチェックリストは、統計的手法も駆使してやってございますので、それなりに信頼性があるもので、その中で、一応効果があるということが専門家にも認められているものでございます。
これをベースにいたしまして、先ほど御指摘のありました九項目のチェックリストをつくっておるものでございますが、これにつきましては、この九項目ではやはりちょっと足りないという御意見もあったり、十分だという御意見もあったりしています。さらに加えますと、いろいろな企業現場では既にこういうストレスチェックを導入されておられる事業場もいらっしゃいます。
そういったところの配慮もしなくちゃいけないということでございまして、そのあたりを勘案しながら、いま一度、私どもとして標準的な検討項目というのはお示ししていきたいとも考えております。その項目を定めるに当たりましては、検討会を設置いたしまして御議論をいただきます。
この検査対象の領域でございますね。今、大きく四つぐらいあると思うんです。仕事の状況、それから御本人のストレス状況というか、元気であるとか眠れないとか、そういったことですね、御本人の状況、それから周囲の支援の状況、それから仕事に対する満足度、主にこの四つの領域を今のところ考えてございますが、こういった領域、これでいいのかとか、そういったことは審議会などの御意見も聞いた上で省令で定めたいと考えてございます。
さらに、指針などによりまして、この標準的な項目、運用方法をお示ししていきたいと考えているところでございます。
○重徳委員 毎回こういう印象を受けるんですが、何か、法律ができてから検討会を設置して、それから考えますという。だけれども、義務づけることだけは先に決まっているわけですから、何を義務づけられるんだろうかというのは、本当に事業所は、戦々恐々というか、よくわからない状況なのではないかと思いますね。
ですから、今までその研究をされてきた内容ももちろんあるというのはわかりますが、それはどういうものなのか、ストレスチェックというのは一体どういう内容や方法でやっていくのか、これを今後検討会を設置して検討して、省令で定めますと。省令を定めること自体は、当然、法律制定後なんですけれども、何か毎回こういうやりとりが多くて、非常に内容不十分、消化不良な感じで審議が進んでいくのが非常に歯がゆく感じます。
最後に大臣にお尋ねしたいんですが、先般、この厚生労働委員会で五月二十三日に可決され、衆議院本会議でも二十七日に全会一致で可決されました過労死等防止対策推進法があります。
ストレスチェックの導入というのが過労死防止にどのように資するのか、この点につきまして、大臣から御答弁をいただきたいと思います。
○田村国務大臣 先ほど来ずっとお話がありますとおり、今回の制度は、ストレスというものに対して気づいていただいて、未然にそれを防いでいく、また職場環境も含めて、いろいろな対応をしていくというようなことであります。でありますから、メンタルヘルスというものの悪化を一定程度防いでいくわけであります。
あわせて、それだけじゃなくて、やはりストレスというものは、例えば虚血性の心疾患でありますとか、また脳疾患、脳血管疾患等々、こういうものに影響が出てくるわけでありまして、そういう意味では、そういうものもあわせて、ストレスに気づくことによって、一定程度これは防いでいける、予防できていけるという部分もあるわけであります。
正直申し上げて、これをしっかりと進めることによって、今言われた過労死というものを防いでいくことにも資していければ、我々としても、この法案の意味というものがあるのではないか、このように考えております。
○重徳委員 ちょっとまだ不明な点もありますので、今後、参考人質疑等を通じてしっかりと深めていきたいと思います。
本日はありがとうございました。