しげとく和彦の国会論戦の会議録
平成25年6月4日 本会議
「『消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案』に関する質疑」(答弁者:森まさこ大臣)
○議長(伊吹文明君) 次の質疑者、重徳和彦君。
〔重徳和彦君登壇〕
○重徳和彦君 日本維新の会の重徳和彦です。
日本維新の会を代表して、きょうも元気に、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案に関連し、政府のお考えを伺ってまいります。(拍手)
近年、消費者トラブルに係る法律事務所の広告が目につくようになりました。完済してしまったから、蒸し返したくない。恨まれるんじゃないか。消費者トラブルに戸惑う個人の立場をしっかり代弁している広告もある一方で、こうしたトラブルに乗じ、困っている人の弱みにつけ込んで、決して社会正義の実現とは言えないビジネスチャンスを見出そうとする勢力もあるという声も、各方面から同僚議員のもとに届いております。
政治の役割は、社会の各分野、各地域にわたる代表者が、議会の場に集い、それぞれの立場から考えを述べ合って、成案を得るプロセスだと考えます。
今回の法案が、消費者トラブルに悩む多くの消費者の方々にとって、本当に朗報となるものなのかどうか、一体どちらを向いた制度設計になっているのかを検証し、責任ある立法府としての役割を果たしたいという立場から、質問に入らせていただきます。
初めに、この法案がつくられるに至った経緯について、三点質問させていただきます。
まず、平成十九年六月に制度運用の始まった、現行の消費者団体訴訟制度の不備についてです。
現行制度においては、これまで、五年間で二十九件が提起され、判決や訴訟上の和解等に至った事案は二十四件ありますが、差しとめ請求権の行使にとどまり、損害賠償請求が認められていませんでした。
従来の消費者団体訴訟制度における制度の不備、すなわち、被害の未然防止や拡大防止ができても、既に起きてしまった被害への損害賠償請求の仕組みがないことが原因で、これまでにどういった問題がどの程度生じてきたと思われるか、森消費者担当大臣にお尋ねをいたします。
次に、消費生活相談の内容を少し分析してみます。
PIO―NETによる平成二十三年度の消費生活相談によりますと、相談件数は全国で八十八万件、うち、取引に関する相談が七十万件超となっております。また、一件当たり契約・購入金額は百四十五万円で、このうち、支払い済み金額は六十九万円です。
最近では、高齢者の相談が増加し、ファンド型投資商品などの出資などの怪しい商品、その二次被害に関する相談が目立っているようです。
一方、消費生活に関する意識調査によりますと、これまでに被害経験があると回答した人のうち、契約をしてしまい、代金も支払ってしまった人が、五割以上を占めました。そのうち、被害に当たると思う金額を十万円未満とする人が、四五・六%と、最も多くなっています。
また、被害経験があると回答した人のうち、実に三六・二%が、その被害について、誰にも相談していないと回答されています。その理由は、半数以上の人が、相談しても仕方がないという回答です。いわゆる泣き寝入りということでしょう。
いかにも、訴訟や争い事を好まない日本人的な数字のような感じがいたしますが、国際的に見て、この数字をどう理解すべきか、森消費者担当大臣にお尋ねをいたします。
そんな中、平成二十一年に成立をいたしました消費者庁及び消費者委員会設置法の附則や附帯決議において、適格消費者団体による損害賠償や団体訴訟制度を含めた幅広い検討を行うこととされ、これらを受けて、消費者委員会に設置された集団的消費者被害救済制度専門調査会で議論された結果が、今回法案となりました新たな仕組み、二段階型訴訟制度です。
議論の過程では、米国のクラスアクションなど、先行事例であります欧米の団体訴訟制度も参考とされ、日本における訴訟風土や歴史的経緯に照らし、今回の仕組みに落ちついたことがうかがえますが、今回の法案の訴訟制度と、先行事例である米国等のクラスアクションとの共通点と相違点はどこにあるのか、お伺いをいたします。
次に、法案の中身について、八点質問をさせていただきます。
初めに、この手続を進める主体、いわゆる手続追行主体についてです。
手続追行主体は、適格消費者団体のうち、内閣総理大臣が認定した特定適格消費者団体が、被害消費者にかわり、訴訟手続を追行することとなっておりますが、現時点では、適格消費者団体そのものが、全国に十一団体しかございません。
特定適格消費者団体と認定されるためには、現行の適格消費者団体の要件に加えて、差しとめ請求関係業務を相当期間にわたり適正に行っていること、被害回復関係業務を適正に遂行できる体制が整備されていること、執行決定機関として理事会が設置されていること、理事のうち一人以上は弁護士とすることなど、かなり厳しい要件が求められております。
ここで、森大臣にお伺いいたします。
消費者の信頼できる、しっかりした確かな制度を目指すならば、こうした厳格な要件は十分理解できる一方で、この制度を大いに利用したいという立場からは、全国的な被害回復の機会を広げるため、必ずしも法律上の適格消費者団体でなくとも、同等に適切な訴訟追行が期待できることが担保されていれば、手続追行主体は適格消費者団体以外の者にも拡大すべきではないか、そういう別々の、両側の声があります。
政府の方向性はどちらなのでしょうか。お伺いをいたします。
二点目は、訴訟要件です。
この法案に基づく訴えは、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害を対象としております。
消費者庁からは、この相当多数の具体的人数について、数十人程度との説明がなされていますが、これも、多いのか、少ないのか、よくわかりません。
消費者の信頼できる、しっかりした確かな制度を目指すならば、相当多数を、確実なものを多くとる必要があります。逆に、訴訟を起こす段階で、既に数十人の被害を把握してからとなると、実際には、把握できていない被害がかなり拡大してしまっている可能性があって不都合だという声もあり、この相当多数の要件を、もっと厳格にとるべきか、あるいは緩やかにとるべきなのか、これも両案あると思うんですが、この点、どのようにお考えでしょうか。森大臣にお伺いをいたします。
三点目は、対象外となる損害についてでございます。
この法案の第三条では、対象となる請求権は、事業者が被害者に対して負うべき金銭債務で、かつ消費者契約法に関するものなど、一定の制約をかけております。
逆に、同条第二項において、次の損害については対象外とされています。
一つ目は、いわゆる拡大損害。すなわち、消費者契約の目的となるもの以外の財産が滅失、損傷したことによる損害です。二つ目は、逸失利益。すなわち、消費者契約の目的物の提供があれば得るはずだった利益を喪失したことによる損害。三つ目は、人身損害。そして四つ目は、慰謝料です。
これらについては、なぜ法案では対象外とされているのか。これは、損害を限定するという意図なのか、それとも、今後、順次拡大していくおつもりなのか、お伺いをいたします。
四点目は、特別法上の損害賠償請求権についてであります。
第三条一項五号では、訴えを起こすことができる不法行為に基づく損害賠償請求は、消費者契約関係にあるもので、かつ、民法の規定によるものに限るとされています。
そのため、特別法である金融商品取引法上の有価証券報告書等の虚偽記載等の事案や、製造物責任法、いわゆるPL法上の製品の安全性を欠く事案などは、損害賠償請求は、この法案に基づいてはできないとされております。
この点は、濫訴を防ぎ、事業者の負担を一定程度にとどめることによって、消費者にとって実効性の高い制度を目指そうという立場ともとれます。
一方で、これらの事案は、多数の消費者が定型的に被害を受ける可能性が高く、泣き寝入りしている人も少なくない事案ですから、本来、本制度によって被害回復を図る必要性も高いのではないかという考え方もあります。
消費者庁は、特別法上の損害賠償請求権について、一体、今後どのように取り扱おうとしておられるのか、お考えをお伺いします。
五つ目は、被告適格についてです。
本制度は、消費者と直接契約を締結した事業者を被告とすることとしているため、すなわち、製品のふぐあいに関する消費者トラブルの場合、被告は、小売業者、売り手だということとなるとされています。
これは、小売店と消費者との契約トラブルが、製造業者にまで過度に波及しないための仕組みともとれます。
一方で、製品のふぐあいの原因等は、明らかに小売店よりも製造業者の方が詳しいんだ、詳しい情報を持っているんだから、かつ、是正の余地もあるんだから、小売店にとっては、訴訟において、攻撃防御を尽くすことが困難であると予想されるといった理由から、被告については製造業者も含めるべきとの声もあったのではないかと考えますが、消費者庁としては、一体、どちらの立場から、どのようにお考えでしょうか。お伺いをいたします。
六点目は、簡易確定手続、すなわち、この法案の最大の特徴であります、第二段階の訴訟参加の手続についてでございます。
対象消費者への通知、公告という手続がありますが、どれほどの消費者が参加し、消費者の権利がどれだけ実現されるかという観点と、それから、事業者の応訴の負担の観点からも、大変重要なポイントだと考えております。
そこで、申し出期間について、本法案では一カ月以上と規定されているようでありますが、これを、長いと見ておられるのか、短いと見ておられるのか、これも意見が分かれると思うんですが、いかがでしょうか。
さらに、申し立て団体によるホームページ等を利用した公告についても、ホームページなんかでは、十分なのか、不十分なのか、これも、両方の意見があるのではないか。不十分との立場からは、被害者にとっては、特定適格消費者団体なるものが訴訟を起こしたという情報は必ずしも認識しないケースもあるんだから、事業者側から情報提供及び公告に協力させることが必要だ、こういう声もあると思います。
一体、消費者庁としては、どのように、どの方向にお考えなのでしょうか。あわせてお伺いをいたします。
七点目は、報酬、費用の基準の策定についてでございます。
特定適格消費者団体は、第二段階の手続を追行することの契約等を行った対象消費者と、当該被害回復関係業務を行うことに関し、報酬を受けることができることとされています。
冒頭申し上げましたように、消費者は、トラブル解決に当たって、多くの不安を抱えています。この報酬、費用の額や算定方法等は、消費者の利益の擁護の見地から不当なものでないこととされていますが、具体的にどのような内容か、ガイドライン等により一定の基準を定める必要があると考えますが、現在想定されているその内容を含め、お伺いをいたします。
八点目は、濫訴の可能性についてです。
本法案では、追行主体を特定適格消費者団体に限定するなど、濫訴防止の措置をとっておられますが、事業者側からは、濫訴の懸念がいまだ根強く残っています。
被害者救済に当たりましては、事業者の協力は必要不可欠なものであります。
消費者庁は、消費者団体等の関係機関と連携して、全国の消費者、事業者の双方からの信頼が得られるように、この制度の趣旨及び必要性等について積極的な周知広報活動を行うとともに、個別の質問等に対してもわかりやすく対応するなど、森大臣がいつもおっしゃる、事業者と消費者のバランスをしっかりとった制度の円滑な運用が確保されるための体制整備を図る必要があるのではないかと考えますが、大臣のお考えをお伺いいたします。
以上で質問を終わります。簡潔明瞭な御答弁を御期待申し上げます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
〔国務大臣森まさこ君登壇〕
○国務大臣(森まさこ君) 現行の消費者団体訴訟制度の問題についてお尋ねがありました。
適格消費者団体における被害回復の仕組みを有しない現行制度のもとでは、消費者と事業者との間の情報の質、量並びに交渉力の格差や、消費者が受けた被害額とみずから訴えてこれを回復するために要する費用や労力との兼ね合いから、消費者が被害回復を断念してしまうという泣き寝入りの問題が生じていると考えられます。
消費者庁が行ったアンケート調査を見ても、消費者被害に遭った人のうち、誰にも相談しなかった人の割合が約四割に達しています。
このような消費者被害に対し、消費者庁としては、消費者にとって最も身近であり、八一・七%と認知度も高い消費生活センター等の相談窓口の整備を支援し、その周知を図っているところです。
消費者被害の意識をめぐる現状についてお尋ねがありました。
消費者が、事業者との間の情報の質、量並びに交渉力の格差や、被害を回復するために要する費用や労力との兼ね合いから、みずから訴えて被害回復することが困難であることは、我が国のみならず、諸外国においても共通の問題と考えられます。
このため、消費者が公正にアクセスし、簡単に利用できる効果的な紛争解決及び救済の仕組みを整備することは先進各国共通の課題でもあり、今般、新たな制度の創設を提案したところでございます。
本制度と米国等のクラスアクションとの共通点と相違点についてお尋ねがありました。
共通する点は、共通する多数の請求について、一つの手続でまとめて処理をする点です。
しかしながら、米国等のクラスアクションにおいては、被害者の一人が他の全被害者のために原告となるものであるのに対し、本制度では、原告になる者を内閣総理大臣が認定した団体に限った上で、行政監督の対象とし、手続に加入した消費者にのみ判決の効果が及ぶとしている点が、大きく異なります。
さらに、対象を消費者契約に関する一定の請求に限定し、請求できる損害の範囲も、いわゆる拡大損害、逸失利益、人身損害、慰謝料を除外して、一定のものに絞ることとしております。
手続追行主体の拡大の検討についてお尋ねがありました。
本制度の手続追行主体は、消費者被害に関する知識経験を有するとともに、事業者から独立した立場で活動ができる者として、適格消費者団体の中から新たに特定認定を受けた特定適格消費者団体としています。
これ以外の者への拡大については、制度の濫用防止、制度の安定性や信頼性の確保などの観点から、その認定要件や認定手続のあり方について慎重に検討する必要があり、本制度の施行後の状況を踏まえた上で検討することが適当と考えております。
なお、個々の消費者がみずから訴えを提起して権利を行使することは、もとより可能であり、それをさらに実効的なものとするのが本制度の目的です。消費者による訴訟提起やADR活用のための環境整備についても、引き続き留意をしてまいります。
相当多数の要件についてお尋ねがありました。
相当多数の要件については、訴訟要件として規定しておりますが、一定の数を具体的に規定することはしておらず、訴えが提起された個別の事案に即し、裁判所において適切に判断されることになります。
いわゆる拡大損害等、すなわち消費者契約の目的以外の財産が滅失したことによる損害等が対象外とされたことについてお尋ねがありました。
本制度では、その特質に鑑み、訴えることのできる案件は、二段階目の手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であるとは言えない案件、一段階目の手続の審理において、被告事業者が、二段階目の手続で争われる消費者の被害額についておおよその見通しを把握できる案件である必要があるものとしています。
そこで、いわゆる拡大損害、逸失利益、人身損害、慰謝料についての損害賠償請求を除くものとしたものです。
なお、本法律案附則第三条においては、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとしております。
特別法上の不法行為に基づく損害賠償請求についてお尋ねがありました。
金融商品取引法などの特別法においては、不法行為について、過失の立証責任の転換や損害額の推定規定等の特則を置いている場合があります。これらは権利行使を容易にするためのものであり、これらの特則による損害賠償請求権を本制度の対象とすることにより、当事者間の利益バランスを崩さないか、慎重に検討する必要があります。
そこで、消費者被害の回復という制度目的の達成に必要かつ十分な範囲で制度の対象を画することが必要であり、不法行為に基づく損害賠償責任について、民法上のものに限るとしております。
被告について、契約関係にない製造業者も含めるべきではないかとのお尋ねがありました。
本制度では、その目的に鑑み、消費者契約に関する一定の請求を対象とすることとしていることから、原則として、消費者契約の相手方を被告としています。
これは、契約の相手方であれば、被告事業者が、二段階目の手続で争われる消費者の被害額についておおよその見通しを把握できること、消費者側としても、購入した商品等に何か問題があった場合には、当該商品の販売等をした事業者に対し苦情を伝えることが通常であるという実情に合わせたものです。
このため、消費者と契約関係にある販売業者等を被告とし、契約関係にない製造業者については、被告としておりません。
通知、公告が行われてから届け出をするまでの期間についてお尋ねがありました。
消費者への通知、公告が行われてから届け出をするまでの期間は、消費者が手続に加入するための十分な期間を確保するとともに、被害回復の迅速性にも配慮する必要があります。
このため、法案上、通知、公告は、届け出期間の末日の一月前までにしなければならないとしています。
相手方事業者からの情報提供及び公告への協力についてお尋ねがありました。
まず、本制度では、団体の求めがあるときは、相手方事業者は、消費者が手続に加入するために必要な情報を公表しなければならないこととしています。
さらに、団体が消費者に対して通知をするために必要な情報を所持する場合であって、団体の求めがあるときは、相手方事業者は、原則として、その開示を拒むことができないこととしており、対象消費者への周知の実効性を高めることとしております。
特定適格消費者団体が支払いを受ける報酬、費用の算定方法についてお尋ねがありました。
消費者の利益の擁護の見地から不当でないことの具体的な内容については、消費者庁が策定するガイドラインにおいて認定、監督の指針として公表し、一定の上限等を示すこととしております。
具体的には、特定適格消費者団体が報酬及び費用の積算の基礎とすることができる費目を定めるとともに、消費者の人数、損害額、事件の規模等を勘案し、最終的に確保されるべき消費者の取り戻し分を一定額以上とすることを定めることを考えております。
本制度の円滑な運用のための消費者庁の体制整備についてお尋ねがありました。
本制度が円滑かつ実効的に利用されるためには、消費者、事業者を含めた関係者に対して、本制度の趣旨や内容等を十分に周知広報することが重要です。
また、特定適格消費者団体の業務の適正な運営を確保するため、消費者庁においては、団体の認定、監督や、団体に関する基本的情報の公表をしてまいります。
このほか、本制度に関して受けた照会や、情報提供についての必要な対応を含め、消費者庁において、本制度の円滑な運用を確保するために必要な体制整備をしてまいります。(拍手)