「体育の日」を「スポーツの日」とすることについて (提言案)
スポーツ議員連盟
「体育の日」を「スポーツの日」とするためのプロジェクトチーム
1.「体育の日」について
○ 昭和 36 年に制定されたスポーツ振興法において、「国民の間にひろくスポ ーツについての理解と関心を深めるとともに積極的にスポーツをする意欲を 高揚する」ことを趣旨として、「スポーツの日」(10 月第一土曜日)が制定さ れた。
○ その後、昭和 39 年のオリンピック東京大会を記念し、昭和 41 年の国民の 祝日に関する法律(祝日法)の改正により、「スポーツにしたしみ、健康な心 身をつちかう」ことを趣旨として、「体育の日」(10 月 10 日。平成 12 年から は 10 月第二月曜日)が国民の祝日に位置付けられた。
○ 「体育の日」は、従前の「スポーツの日」の趣旨を引き継ぐとともに、さ らに、国民が一層健康や体力の保持増進に努めることを願って制定されたもの である。
○ 以来「体育の日」は、50 年にわたり広く国民の間に定着しており、同日に スポーツに関する様々なイベントや大会が開催されるなど、国民がスポーツに 親しむきっかけとなり、スポーツの振興に大きな役割を果たしてきたところで ある。
2.「スポーツ」と「体育」について
○ 本プロジェクトチームにおいて、学識経験者等にヒアリングを実施し、「ス ポーツ」と「体育」の概念について以下のとおり整理した。
・ 「スポーツ」は、近代英国のパブリックスクールで技術
・ルールが洗練 され創りあげられたものであり、欧米先進国を中心に発展を遂げ、現在に おける「スポーツ」は、文化としての人間の身体活動の総体として捉えら れている。
・ 「体育」は、明治初期にもたらされた「Physical education」の訳語であ る「身体教育」等から発祥しており、現在では、狭義の体育は学校の教育 活動として捉えられているが、広義の体育は体操、競技スポーツ、野外活 動、健康運動などを含んだ身体活動全般として広い概念で捉えられている。
○ 国際的には、例えば、ユネスコの「ベルリン宣言」(2013 年)において、「Sport」 は身体活動の総体として、「Physical education」は学校のカリキュラムの一部 として明確に使い分けられているものの、我が国では「体育」の概念を上記の ように広く捉える考えも強く、「スポーツ」と「体育」の定義や両者の関係に ついて様々な考えが存在するのが実情である。
○ なお、法令上、スポーツ基本法第 17 条では、学校体育はスポーツに親しむ 態度を養う上で重要な役割を果たすものであるとされ、平成 11 年に制定され た文部科学省設置法では、「スポーツ」の中に「体育」が含まれると整理され ている。
3.「体育の日」を「スポーツの日」とすることについて
○ 近年、スポーツは、個人の健康の保持増進や人格形成に寄与するのみでは なく、大きな社会的影響力を有するようになってきている。例えば、人と人と の交流促進による地域社会の活性化や経済の発展、障害者等の参画を通じた共 生社会の推進、国際的な相互理解の深まりによる国際平和への貢献など、その 役割・価値は広がりを見せている。
○ 国際的に見ても、例えば、国際連合の「開発と平和のためのスポーツ」で は、スポーツが平和と開発を促し、寛容と相互理解を育む側面に着目し、「ス ポーツの持つチカラ」を広めることとしており、国際オリンピック委員会の「オ リンピック憲章」においても、オリンピズムの目的はスポーツを人類の調和の 取れた発展に役立てることであるとしているなど、スポーツは、個人の営みと しての範疇を超え、社会をより良く変えていく原動力として捉えられている。
○ このような考えは我が国においても浸透してきており、スポーツ基本法の 前文では、スポーツは世界共通の人類の文化であり、我が国社会の活力を生み - 3 - 出すものと位置付けるとともに、一昨年 10 月には、こうした同法の理念を踏 まえスポーツ行政を総合的に推進するスポーツ庁が創設された。
○ また、日本体育協会及び日本オリンピック委員会の「スポーツ宣言日本」 (2011 年)においても、スポーツの発展を人類社会が直面するグローバルな 課題の解決に貢献するよう導くことは、まさに日本のスポーツが誇れる未来へ 向かう第一歩となるとしている。
○ そもそも国民の祝日とは、「よりよき社会、より豊かな生活を築きあげる」 ための記念日であり、スポーツが有する今日的な価値は、祝日法の趣旨に合致 していると言える。
○ このような中、2020 年には、オリンピック・パラリンピックが東京で開催 される。特にパラリンピックは、夏季大会が同一都市で二度開催される初めて のケースであり、スポーツを通じて共生社会を実現することのモデルを世界に 発信することが期待される。
○ また、本プロジェクトチームの議論において、「『スポーツ』には知育・徳 育の観点も含まれており、『スポーツ』を通じて歴史や文化・社会、スポーツ マンシップなどを学ぶことができる。東京大会を機に、『体育の日』を『スポ ーツの日』に改めることで、このようなスポーツの価値を広く国民に啓発し、 ソフト面でのレガシーとすることができる。」との意見があった。
○ 世界中のあらゆる人々がスポーツのために我が国に集うこの好機に、「スポ ーツ」の価値を世界の人々と分かち合い、「スポーツ」を通じた社会変革に向 け世界各国と協調していくべきであり、「体育の日」の名称について、2020 年までに、世界的に広く用いられている「スポーツ」を用いて、「スポーツの 日」と改めるべきである。
○ また、祝日法に規定する「スポーツの日」の趣旨についても、スポーツの 意義・役割を明確にするため、「スポーツを楽しみ、他者を尊重するとともに、 健康で活力ある社会の実現を願う」と改正することがふさわしい。
○ 本プロジェクトチームの検討の中で、武道の振興について議論が行われた。 武道は、武士道に由来する我が国で体系化された伝統文化である。「礼に始ま り、礼に終わる」に示されるように、道徳心を高め、国家、社会の平和と繁栄 に寄与する人間を磨く道である。また、その精神は、広く日本の文化・伝統に 大きな影響を与えている。
〇 武道は、日本の歴史風土に適した運動文化として、子供から高齢者まで様々 な年代を対象に多くの大会が開催されており、国内で 250 万人を超す武道愛 好者が日々研鑽に努めている。さらに、世界各国の武道愛好者は 5000 万人を 超し、「武道」が世界の共通語になるなど、国際的な広がりを見せ、我が国の 存在感・地位向上にも貢献している。
〇 中学校では平成 24 年度から武道が必修化されており、将来全ての日本人が 武道に触れ、その理解を深めることが期待されている。このように、武道は我 が国のスポーツ・文化の重要な一翼を担っており、指導者の確保・武道場の整 備をはじめ、武道の一層の振興を図っていくべきである。
○ なお、「体育」という言葉が有している道徳的要素、教育的な意義は今も重 要であり、「体育の日」を「スポーツの日」と変えることをもって、それを否 定するものではなく、学校の教科としての「体育」の名称変更を求めるもので もない。
4.日本体育協会及び国民体育大会の名称について
○ 「体育の日」を「スポーツの日」と変更することにあわせて、スポーツ基 本法に規定が置かれている公益財団法人日本体育協会及び国民体育大会につ いて、その名称を変更することが検討課題の一つとして挙げられる。
○ 日本体育協会において、本プロジェクトチームの検討も踏まえ、協会の名 称を平成 30 年4月から「公益財団法人日本スポーツ協会」とすることが決定 された。また、「国民体育大会」についても名称変更を行うべきであり、新名 称については「国民スポーツ大会」としたい意向が示された。
○ これを踏まえ、祝日法の改正にあわせ、スポーツ基本法を改正し、「公益財 団法人日本体育協会」を「公益財団法人日本スポーツ協会」と、「国民体育大 会」を「国民スポーツ大会」とすることが望ましい。
5.留意事項
○ 広く国民の間に定着している「体育の日」の名称を変更するに当たっては、 国民の理解を得ることが何よりも重要であり、「スポーツの日」とするに当た って、その意義及び内容について、しっかりと周知していくことが必要であ る。
○ 「国民体育大会」の名称については、開催県の準備状況を踏まえ、2023 年 の第 78 回大会より新名称に変更する。
(参考)
〇国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)(抄)
第一条 自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、より よき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞつて祝い、感 謝し、又は記念する日を定め、これを「国民の祝日」と名づける。
第二条 「国民の祝日」を次のように定める。
元日 一月一日 年のはじめを祝う。
成人の日 一月の第二月曜日 おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜 こうとする青年を祝いはげます。
建国記念の日 政令で定める日 建国をしのび、国を愛する心を養う。
春分の日 春分日 自然をたたえ、生物をいつくしむ。
昭和の日 四月二十九日 激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、 国の将来に思いをいたす。
憲法記念日 五月三日 日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する。
みどりの日 五月四日 自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心を はぐくむ。
こどもの日 五月五日 こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるととも に、母に感謝する。
海の日 七月の第三月曜日 海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄 を願う。 山の日 八月十一日 山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する。
敬老の日 九月の第三月曜日 多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛 し、長寿を祝う。
秋分の日 秋分日 祖先をうやまい、なくなつた人々をしのぶ。
体育の日 十月の第二月曜日 スポーツにしたしみ、健康な心身をつちかう。
文化の日 十一月三日 自由と平和を愛し、文化をすすめる。
勤労感謝の日 十一月二十三日 勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに 感謝しあう。
天皇誕生日 十二月二十三日 天皇の誕生日を祝う。